保護者・先生・支援者、誰にでも起こることです。
あなたは幼稚園の先生だとしましょう。
あなたは自閉症傾向の園児に、
「プレイルームに移動しましょう。」
とゆっくり優しく言いました。
あなたのその支援、園児に伝わりましたか?
もう一つ質問です。なぜ、伝わったと確信したのですか?
「伝わる」とは何か?
スタートは、自閉症児に対するあなたの目標です。
すなわち、自閉症児がプレイルームに移動することです。
そしてゴールは、あなたの目標通りに自閉症児が反応することです。
伝わるというゴールに必要な条件:
- 条件1(構造): 子どもの実利を伴う目標とその過程があること
- 条件2(媒体): 子どもにはその構造が見えていること
ここで、健常児は自然に、頭の中で先生の目標を自分の実利に再構成できてしまうのです。
【例題】幼稚園での教室移動(3日間)
あなたは、園児たちをプレイルームに移動させようとしています。
1日目: 言葉だけ → 動いた or 動かない
あなたは、「プレイルームに移動しましょう」と優しく言います。
- 園児が移動を始めたなら、それは支援が伝わったことを意味します。
- 園児が動かないなら、それは、支援が伝わっていないことを意味します。
2日目: 絵カードを見せて言った → 動いた
次の日あなたは、プレイルームの絵カードまたは写真を見せながら、「プレイルームに移動しましょう」と優しく言います。
おそらく園児はプレイルームに移動すると思います。あなたはこう思うでしょう「視覚支援は効くなぁ」。
3日目: 同じく絵カードを見せて言った → 動かない
次の日も同じようにあなたは、プレイルームの絵カードまたは写真を見せながら、「プレイルームに移動しましょう」と優しく言います。
おそらく園児はプレイルームへの移動を渋ると思います。あなたはこう思うでしょう「視覚支援は大したことないなぁ」。
問い: 何が起こっているのでしょうか?
【分析】実利の有無が分岐点
まず同じ支援をしてる2日目と3日目の違いを考えてみます。
おそらく
- 2日目: 園児は今やっていたことに飽きていて、プレイルームへの移動にさほど抵抗を示さなかったのだと思われます。→ 移動した。
- 3日目: 園児は今の事に夢中で、プレイルームへは行きたくなかったのだと思われます。→ 移動しなかった。
だから、2日目と3日目の違いはたまたまであったのでしょう。
「プレイルームへの移動」は先生の目標です。園児の目標ではありません。
だから園児にはこの移動を行う理由がないのです。
プレイルームへの移動だけでは、園児の実利を伴っていません。園児には今やっていることをやめてまで、プレイルームに移動するモチベーションは生まれないのです。
- ティップ: モチベーションとは、目標に向かう推進力。達成感とは、目標に達した時のスカッと感。
【解決】実利を伴う目標の作り方
それでは、「伝わる支援」を組み立ててみましょう。
- 園児の実利を探す: プレイルームにあるまたはそこで行う園児にとって楽しい物事を見つけてください。例えば、トランポリン、ボールプールなどです。
- 目標に実利を設定する: 楽しい物事の中から1つ選んで目標としてください。例えば、トランポリンです。
- 過程と目標に組み立てる: 「プレイルームへの移動 → トランポリン」という構造を作ります。
- 過程と目標を一緒に見せる: 「プレイルームへの移動 → トランポリン」という構造を見ることができるようにプラカード化して、園児に見せます。
言葉で「プレイルームへ行って、トランポリンしようね。」と伝えても、自閉症児の頭の中からはすぐに抜けてしまいます。
自閉症児には、複数の物事を頭の中に保持したり処理したりするのは苦手、という特性があります。そして、自閉症児はワーキングメモリが少ないとよく言われます。そのため言葉で伝えられた複数の物事は、頭の中に残りにくいのです。
ところが、複数の物事でも見た物なら理解できるという特性を持ち合わせています。そして見ている間はずっと、頭の中にそれらが浮かんでいるのです。
ですから、見える物を作る手間は惜しまないでください。
園児に実利を伴った目標が見えていると、先生の意図どおりにプレイルームに移動してくれるでしょう。
【失敗例】ありがちなスケジュール表の落とし穴
多くの方が知っているように、自閉症児に対しては、スケジュール表で見通しを見せてあげる支援は定番中の定番です。
しかし、スケジュール表を導入しても子どもがその通りに動いてくれない、と悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
その原因は、スケジュールの内容に子どもの実利が含まれていないことです。
【まとめ】伝わる支援の本質
実利を伴う目標とその過程を、見える形で示す
これが支援の本質です。
共同目標への前振り
子どもの成長に伴い目標は大きくなり、その過程も増えていきます。そこに他者との「共同目標」という概念が生まれてきます。詳しくは別の機会にお話ししようと思います。


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